晴耕雨読の田舎暮らし記事

山間の集落と 程よい距離を保つ
晴耕雨読の田舎暮らし

目次

 ●物件概要
 ●晴れた日は、畑を耕し花壇の手入れ 雨の日は、読書と音楽に親しむ なんてリッチな生活なのでしょう!
 ●内と外を繋ぐ3つの中間領域
 ●デザインにこだわったわけではないが 設計事務所と一緒に考えてみたかった。
 ●建て主の思いを巧みに引き出し表現し、確認する。
 ●集落の人たちと ほどよい距離を保つ



画像の説明


■建築場所/岡山県美作市
■家族構成/そろそろ定年を迎える夫婦
■敷地面積/692㎡(209.33坪)
■延床面積/92.06㎡(27.85坪)
■構造/木造軸組(平屋建て)
■設計監理/中谷建築設計室/中谷昌明(なかたにまさあき)/岡山県美作市
■写真/スタジオ ニコフィルム/伊田徹平
■取材・記事/山中省吾

別荘地ではないので業者によって手を加えられた要素は何もありません。まわりはず~と昔からこのまんま。
山、田んぼ、小川、集落、そんなところにつくったこの家は、ちょっとお洒落です。
アプローチと庭の一部には、耐火レンガ3,840個を敷き詰めました。焼き物の不良品を廃材利用してつくった
耐火レンガなので、とても安かったです。1個35円でした。



 晴れた日は、畑を耕し花壇の手入れ
  雨の日は、読書と音楽に親しむ
   なんてリッチな生活なのでしょう!

戦後のベビーブーム。
昭和22年から24年の3年間で、約800万人もの出生数を記録しました。
1年間に266万人、これは最近の出生数の実に2.7倍です。
ベビーブームに生まれた約800万人の人たちを「団塊の世代」と呼びます。

団塊の世代の人たちはとても面白いのです。
テレビ、洗たく機、冷蔵庫、マイカー、マイホーム。
彼らは積極的に物を購入し、戦後の経済を引っ張りました。
家庭にレジャーを持ち込み、ジーンズやミニスカートを穿いたのも彼らです。
学生運動に燃え、企業戦士として戦ったのも彼らでした。

団塊の世代の人たちはまだ若いのです。
定年退職を迎えても、隠居して好々爺になる気は毛頭無いようです。
何か新しいこと、現役時代にできなかったことを始めたいと思っています。

Tさんもその一人です。
住み慣れた大阪を離れ、定年退職後の生活をエンジョイしようと、
あえて山間の集落に家を建てました。

団塊の世代は、また新しい社会現象を生み出しつつあるようです。


【 山間の集落に現れた ちょっとお洒落な家 】

外観





レストランと間違えそうな外観ですけど、山間の集落に建てた住宅です。
このあたりを通る人はあまりいません。
外壁は、ヨーロッパ漆喰掻き落とし仕上げ・ハビスタンブ(VONSUMAINE)5,800円/㎡。
大阪市の通販会社、国華園というところで購入した鉄製のアーチ。
中国製で表面は焼き付け塗装が施してあります。これで3,980円。安っ!





【 川のせせらぎ ホタルの乱舞 田舎暮らしを満喫 】

岡山県の北東部。鳥取県と兵庫県の県境に近い山村。
最寄りの駅は、智頭急行智頭線の「宮本武蔵駅」です。
JR岡山駅から2回乗り換えて、約2時間で着きます。

でも、駅からTさんの家まで、徒歩で優に1時間はかかります。
車抜きでの移動はとても考えられません。

逆に、車さえあればさほど不便ではなく、30分も走れば大きなスーパーで買い物ができ、ゴルフ場にも温泉にも行けます。考えようによっては、都会ではけっして味わうことのできないリッチな環境が、そこかしこに転がっているとも言えるのです。

バーベキューテラス







敷地の一角の畑。緩やかに湾曲したコンクリート壁の向こう側にバーベキューテラスがありますが、外からはそれとは分からないように工夫しています。



そんなTさんの家は、周囲に山や谷や小川があって、1日中探索しても退屈しません。

南の方角には、道路を挟んで自家栽培用の田圃があります。田圃の向こうには、欝蒼とした杉の古木に囲まれた神社の森が見えます。

神社の森を右手に見て、小さな道を東の方角へ上ると、そこから先はもう人とすれ違うことはないと思えるような山奥へと分け入りまが、まだこの奥にも民家が点在するといいます。

北の方角には、Tさんの家の敷地に沿って小さな水路があります。初夏、この水路にホタルが舞います。

敷地全体が緩やかに下っている西の方角には、田圃が広がり民家が点在しています。
晴れた日は、畑を耕し花壇の手入れをします。雨の日は、読書と音楽に親しみます。

近くの川で釣った魚と山の恵みで料理を楽しみ、川のせせらぎに耳を傾け、ホタルの乱舞に目を奪われます。なんてリッチな生活なのでしょう! 都会ではけっして味わうことのできない豊かな自然が転がっています。

倉庫の脇に積み上げた薪ストーブ用の薪です。どこから調達すればいいか、建築士の中谷さんがすべて伝授しました。


内と外を繋ぐ3つの中間領域


画像の説明










水路に面したウッドデッキです。ここは建物の陰になるので夏にいちばん涼しい場所。初夏、このあたりにホタルが舞います。正面の高窓からキッチンに朝日が差し込み、とても気持ちいいそうです。




【 濡れ縁と ウッドデッキと バーベキューテラス 】

Tさんの家には、内と外を繋ぐ3つの中間領域があります。『濡れ縁』と『ウッドデッキ』と『バーベキューテラス』です。この3つの中間領域は、ある時は「屋外のリビング」になります。家の中のリビングに加えて、外に3つのリビングを持つなんて、羨ましい限りです。

この3つの中間領域は、それぞれに趣が違います。

庭に面した濡れ縁は、ぽかぽかと陽だまりが気持ちいい場所です。農作業や庭の手入れの休憩時、ここに腰かけてお茶を一服していると、ご近所の人達が「採れたての野菜を食べんかね」と、玄関ではなくここから顔を覗かせます。なんとなく日本人のDNAが反応するような濡れ縁です。


縁側
日本の民家に残る縁側の機能がここにあります。外来者との接点です。
「庭仕事に精が出るね。採れたての大根食べんかね」「ありがとう。まあお茶でも飲んでいきんさいな」



北東の一角の水路に面したところに広いウッドデッキがあります。南と西の陽ざしが建物で遮られた、夏いちばん涼しい場所。ここはTさんの家の避暑地です。

目の前は山と畑。遠くに民家が見えます。小川のせせらぎを聴き、静かに目を閉じてしばし思索の時間を持つのもこのウッドデッキです。どっぷりと日が暮れた初夏。思索から覚めて目を開けると、辺りにはホタルが乱舞しているそうです。

ウッドデッキの向こうには民家が点在します。お隣さんまでの距離は、だいたい100mくらい。この程よい距離感がいいとTさんは言われます。昔から住んでいる人たちに気を使わせないし、こっちも気を使わなくていいからだそうです。




【 外と遮断することで リビングが解放された 】

西に向かってなだらかに傾斜している地形の、最も開けている西側を敢えてコンクリートの壁で塞ぎました。ここを塞ぐことで、リビングが外に向かって思い切り解放されました。

「建築中は、凄い壁だとびっくりしました。正直どうなるか心配だったんですよ。でも、出来上がってみると、これが丁度いい大きさなんですね。外からの視線を遮り、かといって閉鎖的でもありません。子供たちが来ると、よくここでバーベキューをするんです。バーベキューをしているのが、外を通る人に分からないのがいいですね」とTさん夫妻。

「バーベキュー焜炉」というには大げさかもしれませんが、耐火レンガで箱をつくりました。既製品のバーベキューセットを下から取り出して置くだけです。すぐ横には洗い場もあります。準備や後片付けに手間がかからないので、誰かが来ると「さあ、やりますか」と、気楽にバーベキューが始まります。

Tさんの家にある3つの中間領域で、目下のところ、最も活躍しているのがここ、バーベキューテラスでです。(実用的な場所なんですね)

画像の説明








コンクリートの壁をつくることで、外と内の中間領域ができました。リビングを外に向かって思い切り解放できます。友人が来ると、「じゃあやろうか」と、ここでバーベキューパーティーが始まります。








デザインにこだわったわけではないが
 設計事務所と一緒に考えてみたかった。



キッチン
天井の仕上げは、針葉樹の構造用合板のままです。合板の厚さは30ミリ。壁の仕上げは、珪藻土塗り。床はヒノキを製材して加工したフローリング。壁の断熱は現場発泡ウレタン。屋根の断熱はボード状の断熱材を使った外断熱工法です。


【 注文住宅・自由設計だったけど 少しも満足感はなかった。なぜだ! 】

Tさんが家を取得したのは、これが3度目です。そして家を新築したのは、これが2度目です。

最初は小さな建売住宅を購入して10年住みました。やがて手狭になったので、建て替えることにしました。新しい家には自分の考えを反映させようと、工務店の注文住宅で建てました。

工務店の注文住宅、自由設計。
《子供部屋の数は? 大きさは? 間取りは?》

「確かに、注文は聞いてもらいました。自由に設計できたような気もします。だけど、少しも満足感はなかったのですよね。何故でしょうね」

Tさんは、工務店で家を建て替えたすぐ後に「オープンシステム」という建築方式を知りました。

「たしか、テレビで観たんじゃないかな。もう少し早く知っていたらと、とても残念に思ったのを覚えています。私は、特にデザインにこだわりがある訳ではないのですが、設計事務所と自由に設計ができたなら、もっと楽しかっただろうと思いましたね」

薪ストーブはアメリカの輸入代理店から直に購入しました。家の断熱性能が高いので、ストーブに火を入れると十分過ぎるほど暖かくなるといいます。


【 上手く伝えることができなくても ちゃんと反映された 】

15年後、Tさんは2度目の家づくりを行ないました。

「こんな山の中で、オープンシステムを行う設計事務所はあるのだろうかと思いながらインターネットで検索しました。それが、あったのです。中谷建築設計室の中谷昌明さんでした。嬉しかったですね」

Tさんは、すぐに中谷さんと会い、家づくりの事前相談に乗ってもらいました。信頼できる人だと思ったので、中谷さんと家づくりを進めることにしました。

基本設計に4~5ヶ月、実施設計に2ヶ月、積算と見積もりと業者選定に2ヶ月を要しました。その間、Tさんと中谷さんが直に会って打合せをしたのは4~5回程度でした。

大阪と岡山県の山の中です。まだ市役所勤務のTさんは頻繁に会うことができないので、もっぱらeメールで打ち合わせをしました。図面も画像に変換して送信しました。

Tさんは、設計中のことを次のように振り返ります。
「部屋の広さは? 間取りは? 訊かれたことは工務店の時も中谷さんの時も同じだったかもしれません。ただ、私が上手く伝えることができなかったことも、中谷さんは結果的にちゃんと反映させてくれたのです。そこが工務店と中谷さんの大きな違いでした」

洗面器は、ネットで見つけたものを購入しました。本棚や食器棚も、使い方をしっかり検討した上で造り付けとしました。




建て主の思いを巧みに引き出し表現し、確認する。



画像の説明
 模型とデッサンは、中谷さんとTさんの共通言語でした。


【 設計図面より 模型とデッサン 】

正確な金額をはじき出し、適切な工事を行うには、設計図面は欠かせません。設計図面は、建築のプロ同士を結ぶ共通言語です。

でも、プランを練る段階で、設計図面は必ずしも建て主と建築士を結ぶ共通言語とはなり得ません。プロに設計図面は読めても、建て主にはなかなか読めないものです。

中谷さんは、基本設計の段階で、模型とデッサンを重視しました。建物の全体を把握するには模型が適しているし、雰囲気を表すにはデッサンが適しています。

「模型は、建て主に見せるためのもの。こう思っている人が多いかもしれませんが、私は違います。模型で形を確認し、もっとよい設計はないかと、私自身のためにつくっています。デッサンもそうです。フリーハンドのデッサンでも、結構イメージが掴めるでしょ」と、中谷さんは言います。


デッサン デッサン


さらに、このようにも。
「もちろん、建て主さんの要望には真剣に耳を傾けます。それと、いろんな質問を投げかけて、建て主さんの思いを引き出そうとします。でも、私は、建て主さんの要望通りに線を引くのが設計だとは思いません。設計とは、建て主さんと建築士が互いをぶつけあう中でつくりあげる共同作業だと思っています」

画像の説明
模型は間取りや空間の構成がよく分かります。設計者の中谷さんも、この模型で屋根の形状を確認し、構造の組み方を検討したといいます。「模型は、工事現場でもけっこう役に立つのですよ。職人に難しい収まりを説明する時、模型があると話が早いのです」と中谷さん。



集落の人たちと ほどよい距離を保つ

インターネットで「オープンシステム」を検索し、中谷さんを見つけたTさんですが、同じようにこの土地もインターネットで見つけたといいます。質問をぶつけてみました。

―――何もこんなところ(と言っては失礼ですが)ここは山の中、田舎です。とても不便だと思います。もっと便利な別荘地とか保養地があったと思うのですが、何故ここに決めたのですか?

別荘地や保養地は確かにいろんな施設があって便利なのでしょうが「田舎に持ち込まれた都会」のような一面もあります。私は、ふつうの田舎がよかったのでここを選びました。

―――ここは既存の集落から少し離れています。集落の中の古い家を買い取って改造するお考えはなかったのですか?

そうすると、集落に住む人たちと否が応でもお付き合いが発生します。いくら田舎暮らしがしたいといっても、やはりこっちは気ままです。集落の人たちに気を使わせることになるかもしれません。ほどよい距離を保ってお付き合いする方が互いのためにいいと思いました。

―――変化の乏しかった田舎に、突如都会から移住してきたTさんを、集落の人たちは興味津々で見ておられるのではありませんか?

それがね、この辺りに都会から移住する人、けっこう多いようなんです。私も2~3人知っています。これから、まだまだ増えるかもしれませんよ。

不動産業者や行政の思惑に乗るのではなく、自分で探して自分で好きなところに決めたTさん。団塊の世代の人たちは、定年退職を契機に、また新たな社会現象を生み出しつつあるようです。

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